職場の高齢者施設で暮らすおじいさん
お茶を飲むお手伝いをしていたとき、ふとたずねてみました。

「お茶、コーヒー、紅茶では何が好きですか?」

おじいさんは、「コーヒー」と答えました。

「来週、月に一度の喫茶店が開かれて美味しいコーヒーをいれてもらえるの、
いっしょに行きましょうね。」
と、伝えると、おじいさんは、大きくうなづきました。

おじいさんは、身体に麻痺があって、うなづいたり、
首を横に振ったりして意思表示をしています、あまり言葉はありません。
だから、コーヒーと答えてくれた言葉、おじいさんの声を聞けたことが嬉しかった。

おじいさんは、お茶をそのまま飲むとむせてしまうので、
水分はトロトロに葛湯のようにして飲んでいます。
自分で食べたり飲んだりしていません、誰かのお手伝いが必要です。

でも、おじいさんは、目が見える、耳が聞こえる、感情を伝えることもできるのです。
コーヒーの味や香り、温度、喫茶店の賑やかな雰囲気を感じることが出来ただろうに、
今までお誘いしなかった…
あちゃー、気付かなくて、今までごめんなさい。

約束した喫茶店の日、美味しいコーヒーをいれてもらってから、
おじいさんに聞きました。

砂糖とミルクは両方いれていいですか?」
おじいさんは、「砂糖」と言いました。

「いつものように、とろみをつけてもいいですか?」
おじいさんは、首を横にふりました。
(そんな気がして聞いてみたんですけどね…)

むせちゃったら、とろみつけましょうね、少しずつ飲みましょうと伝えて、
小さなスプーンで少量のコーヒーをお口へ運ぶと、
おじいさんはゆっくりとコーヒーを飲み込みました。

先日、歯医者さんから少しずつならとろみがないもの飲めますとお墨付きもらっていました。
お医者さんの言葉は、こういう時、水戸黄門の印籠のような効果をもちます。

おじいさんの笑う顔をみたことがありません。
微笑みが見れたらいいなぁと欲が出てくるけれど、
笑わない頑固なタイプ、いえいえ昔気質なおじいさんなのかもしれませんね。

おじいさんと喫茶店でコーヒーを飲む、月に一度の楽しみができました。